眼の病気に関するQ&A
加齢黄斑変性に関する8つの疑問
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Q1
加齢黄斑変性はどのような症状がありますか
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A1
加齢黄斑変性の症状は歪みと視力の低下(見えにくさ)です。加齢黄斑変性では光を感じるフィルムにあたる網膜のうち、モノを見る中心の視力に関係する黄斑に病気が発生します。そのため、見たい部分が見えにくくなり、読み書きや、免許更新を含めた車の運転など日常生活に影響します。
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Q2
加齢黄斑変性はどのような病気ですか
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A2
加齢黄斑変性は大きく2種類に分けられます。一つは滲出型加齢黄斑変性、もう一つは萎縮型加齢黄斑変性です。滲出型加齢黄斑変性は、網膜の黄斑というモノを見る上で重要な部分に異常な血管が発生し、血液成分が染み出すことで網膜に出血や腫れ(浮腫)を生じるため、見えにくくなります。萎縮型加齢黄斑変性には異常な血管は生じませんが、黄斑の光を感じる細胞自体が徐々に痛んでしまい、見えにくさがでてきます。原因は、加齢、喫煙、遺伝、脈絡膜という眼球を栄養する血管の異常構造など多岐に渡ります。
診断は視力検査や眼底検査の他にOCTという網膜の断層撮影が可能な器械などを用いて行います。検査の痛みはありません。一般的に加齢黄斑変性では中心をみる視力が低下しますが、視界が完全に真っ暗になることはありません。
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Q3
加齢黄斑変性の治療について教えてください
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A3
日本人の加齢黄斑変性の9割は滲出型加齢黄斑変性とされています。まず、滲出型加齢黄斑変性の治療について説明します。滲出型加齢黄斑変性の症状は異常な血管からの浸出液が漏れることによるものですので、この血液成分の染み出しを抑えるのが治療の目的になります。その方法には大きく3つあります。
1つめは抗VEGF薬硝子体内注射という方法です。VEGFとは血管内皮増殖因子のことで、加齢黄斑変性の異常な血管の発生に関与する糖蛋白質です。このVEGFに対する抗体を眼内に注射することで、異常な血管からの血液成分の染み出しを抑えるという方法です。
2つめは光線力学療法(PDT)です。これは光に反応するビスダインというお薬を点滴して、その後に微弱なレーザーを眼の病変部にあてることで異常な血管自体を閉塞させたり、異常の下地となっている血管構造を改善させたりする治療です。
3つめは眼科で一般的に使用される通常のレーザーで病変部を直接焼くという方法です。
また、これらの治療法以外にも、ノーベル賞を獲得したiPS細胞から作成した網膜色素上皮細胞をフィルムである網膜の下に移植するという方法があります。まだ臨床研究段階であり、一般的な医療とはなっていませんが、今後の進展が期待されます。萎縮型加齢黄斑変性については、今のところは有効な治療方法がないのが現状ですが、新薬の開発研究が進められています。
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Q4
抗VEGF薬硝子体内注射について教えてください。
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A4
まず、この治療は、白目に直接注射をするものであるということです。目に注射をすると聞けば、誰でも怖いと思うはずです。しかし、日本では2008年から健康保険適応の治療となっており、現在の治療の主流です。世界中で行われていますし、日本でも当初は大学病院や地域の基幹病院でのみ行われていましたが、安全で一定の効果があることから、現在では眼科クリニックでも行われることが多くなっています。注射は清潔環境下で、点眼麻酔・消毒をしてから行います。事前に目薬で麻酔をするためほとんど痛みはありません。注射は月に1回、3か月連続で行い、その後は目の状態によって、適宜注射を行います。注射により異常な血管の勢いが弱くなり、網膜の浮腫が引くと、見えやすくなります。しかし眼内に注射された薬液の効果がなくなった後に、ご自身の網膜の回復力が眼内を正常な状態に保つことができなくなると再び異常な血管がでてくるため、また見えにくくなります。そのため追加の注射が必要になることがあります。注射により、見え方の改善が期待できますが、完全に正常になるわけではなく、歪みなどは残ります。また、注射を打ってもあまり症状が変わらない方や、注射治療を継続していても視力が低下する方もいます。これは病気のために、網膜にある視細胞というモノを見る細胞が障害されてしまうためです。
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Q5
光線力学療法(PDT)について教えてください
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A5
この治療のためには、まず蛍光眼底造影検査が必要です。造影剤を点滴して、眼底写真を撮ることで、異常な血管の場所や病変の広がりが分かります。治療ではビスダインという光に反応するお薬を点滴した後に、微弱なレーザーを眼の病変にあてます。(このレーザーを当てる範囲を決めるのに、蛍光眼底造影検査が必要です。)通常、治療の痛みはありません。この治療の特徴は、治療後2日間は日光などの強い光にあたることができないということです。なぜなら日光にあたった部位と体内のあるビスダインが反応して火傷を生じるためです。そのため、ビスダインが体から出ていくまでは日光を遮った暗室で2日間を過ごす必要があります。夜間は車のヘッドライトのハロゲン灯を浴びるとよくないので、基本的に外出はできませんが、蛍光灯やTVの光は問題ありません。自宅で暗室が作れる場合には外来で行うこともできますが、治療の特殊性から入院加療を希望する方も多いです。
この治療は視力の維持を目的として、抗VEGF薬が開発される前には広く行われていました。抗VEGF薬が普及するにつれ、過去の治療となっていましたが、実は近年見直されています。それは注射とPDTを併用することで、治療のための注射の回数を減らせるのはないかとされているからです。特にパキコロイドと呼ばれる血管の異常構造を持つ方に向いているのではないかとされており、患者さんによっては有効な方法となる可能性があります。鹿児島県では大学病院や鹿児島市立病院などで治療を受けることができます。
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Q6
レーザー治療について教えてください
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A6
異常な血管を直接レーザーで焼く治療で、うまくいくと再発もない優れた方法ですが、黄斑の中心以外に病変がある方のみが対象になります。異常な血管は黄斑の中心にできることが多いので、このレーザーのみで治療できる患者さんはとても少ないです。
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Q7
その他の注意点などについておしえてください
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A7
まず、タバコを吸っている方は禁煙をお勧めいたします。喫煙は、脳梗塞や心筋梗塞、癌などのリスクを増大させることはよく知られていることですが、同様に加齢黄斑変性の危険因子であることが明らかになっています。治療する際にも、まずは禁煙が必要です。とは言っても、ご自身の意志のみでの禁煙は難しい場合も多いため、禁煙外来の受診をお勧めします。また加齢黄斑変性には有効とされているサプリメントがあります。具体的にはルテインやゼアキサンチンが含まれているサプリメントで、薬局で購入することができます。ルテインやゼアキサンチンは体内で黄斑色素となり、加齢黄斑変性の進行抑制や、他眼の発症抑制効果があるとされています。(100%予防できるわけではありません。)
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Q8
加齢黄斑変性は治りますか
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A8
現在の医学では加齢黄斑変性は完治が難しいため、付き合っていく種類の病気になります。加齢黄斑変性の治療目標は、現状のやや改善、もしくは維持、あるいは進行を遅らせることにあります。治療をせずに放置すれば、徐々に視力が低下して、見たい部分が見えにくくなり日常生活に影響します。視力が低下するというのは想像以上に大変なことです。
以前は有効な治療方法がなく、ただ視力の低下を待つほかありませんでした。今は抗VEGF薬によって視力の維持が期待できるようになっています。定期的な治療が必要になるという点では、加齢黄斑変性は高血圧症や糖尿病などといった病気に似ています。高血圧症では、お薬を飲んで血圧を下げることが、心臓病や脳血管障害のリスクを減らすことにつながります。お薬をやめてしまうと再び血圧が上がるのが通常です。加齢黄斑変性も同様で、注射をすることで病気の勢いを抑えておくのが治療の目的になります。注射をやめてしまうと、病気の勢いが強くなって見えにくくなるため、視力の維持のためには継続した注射が必要になります。
一方で、治療費も安くはありません。抗VEGF薬は有効な治療ではありますが、お薬の値段が高く、1割負担で1万5千円ほど、3割負担だと5万円ほどの自己負担が発生します。PDTやレーザー治療も同程度の自己負担が生じますが、これらは抗VEGF薬注射との組み合わせで有効な治療法となる可能性があります。どの治療をどのタイミングで用いるかは、患者さんの病気の状態にもよりますので、医師とよく相談する必要があります。その他の詳細や合併症などの注意点については担当医に直接お尋ねください。